最高裁判所第三小法廷 平成10年(オ)866号 判決 1999年12月14日
上告人
林建設株式会社
右代表者代表取締役
林右沢
右訴訟代理人弁護士
生駒和雄
被上告人
林定沢
右訴訟代理人弁護士
佐渡春樹
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人生駒和雄の上告理由について
株式を共有する数人の者が株主総会において議決権を行使するに当たっては、商法二〇三条二項の定めるところにより、右株式につき「株主ノ権利ヲ行使スベキ者一人」(以下「権利行使者」という。)を指定して会社に通知し、この権利行使者において議決権を行使することを要するのであるから、権利行使者の指定及び会社に対する通知を欠くときには、共有者全員が議決権を共同して行使する場合を除き、会社の側から議決権の行使を認めることは許されないと解するのが相当である。なお、共有者間において権利行使者を指定するに当たっては、持分の価格に従いその過半数をもってこれを決することができると解すべきであるが(最高裁平成五年(オ)第一九三九号同九年一月二八日第三小法廷判決・裁判集民事一八一号八三頁参照)、このことは右説示に反するものではない。
これを本件についてみると、原審が適法に確定したところによれば、(一) 亡林斗用の有していた本件株式は、被上告人を含む亡林斗用の共同相続人が相続により準共有するに至ったが、本件株主総会に先立ち、権利行使者の指定及び上告人に対する通知はされていない、(二) 本件株主総会には、右共同相続人全員が出席したが、被上告人が本件株式につき議決権の行使に反対しており、議決権の行使について共同相続人間で意思の一致がなかった、というのである。そうすると、本件株式については、権利行使者の指定及び会社に対する通知を欠くものであるから、共同相続人全員が共同して議決権を行使したものとはいえない以上、たとい上告人が本件株式につき議決権の行使を認める意向を示していたとしても、本件株式については適法な議決権の行使がなかったものと解すべきである。
したがって、本件株式について適法な議決権の行使がなく、本件株主総会決議は取り消されるべきであるとした原審の判断は、その結論において是認することができる。右判断は、所論引用の判例に抵触するものではない。論旨は、原判決の結論に影響を及ぼさない部分についてその違法をいうものにすぎず、採用することができない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官奥田昌道 裁判官千種秀夫 裁判官元原利文 裁判官金谷利廣)